ペット用品の販路開拓がうまくいかない原因は、販路の数よりも「飼い主が商品と出会う場」の不足にあります。ドッグイベントの来場者が数年で数倍に伸びているのは、その裏返しです。ただしイベント出展だけでは十分ではなく、飼い主の生活の中に複数の接点を設計する必要があります。
ペット用品の販路開拓を阻むのは「出会う場」の不足

ペット用品の売り場は十分にあります。足りないのは、こだわりの商品が飼い主に見つけてもらえる場です。
作り手の側は増えています。富士経済の調査では、ベンチャー企業や異業種の企業がメーカー直販ブランドを展開するケースが増えていると指摘されています。国内最大級のペット見本市「インターペット」の出展者数も、2022年の465社から2025年には980社へと倍増しました。
一方で、飼い主の買い物先は限られています。飼い主1,005人を対象にした調査では、ペット用品の購入場所はホームセンターが54.8%、総合ECが39.6%でした。ペット関連EC市場の8割弱は、Amazonや楽天などの大手モール経由です。
その結果、飼い主の側には不満が残っています。同じ調査で、ペット用品のデザインや色の選択肢が少ないと感じている人は54.3%にのぼりました(1社による調査である点には留意が必要です)。
つまり「買える場所」はあっても、「こだわりの商品と出会える場所」がないのです。商品の数が増えるほど、1つの商品が見つけてもらえる確率は下がっていきます。
実践からの示唆: ペット関連メーカーのブランド戦略を支援するなかで、もっとも多く聞くのが「商品には自信があるのに、知ってもらう機会がない」という悩みです。課題の多くは商品力ではなく、飼い主との接点の少なさにあります。
中小のペットブランドがぶつかる3つの壁
中小のペットブランドが販路開拓で直面する壁は、大きく3つに整理できます。
店頭の棚に入れない
ホームセンターやドラッグストアの棚は限られています。多くは大手メーカーの定番商品が占めており、取引条件や最低ロットの面でも、中小ブランドが新たに入り込むハードルは高いのが実情です。ペット業界に新規参入する企業が最初につまずくのも、この点です。
ECでは埋もれる
ECは出店しやすい一方、商品数が膨大です。大手モールの中では、レビュー数と広告費が表示順位を左右します。立ち上げたばかりのブランドが、検索結果の上位に出続けるのは容易ではありません。
試さないと選ばれない
ペット用品、とくにフードは「愛犬が気に入るかどうか」が購入の決め手になります。ドッグフード選びで最も重視する点として「食いつき」を挙げた飼い主は23.4%で、項目の中で最多でした。一方、今のフードに「大変満足」している人は26.9%にとどまります。乗り換えの余地はあるのに、実際に試さなければ判断できない。これがペット用品の販路開拓を難しくしている構造です。
ドッグイベントは飼い主と商品の「出会う場」として拡大している

こうした状況のなかで、ドッグイベントが飼い主と商品の出会う場として急速に拡大しています。主要イベントの来場者数は、いずれもコロナ禍前を大きく上回っています。
イベント | 来場者数の推移 |
|---|---|
約2.3万人(2019年)→ 約5.3万人(2024年冬)→ 約7.0万人(2025年冬)→ 約8.4万人(2026年春) | |
ジャパンわんこフェスタ(お台場) | 2万人(2024年11月・初回)→ 約7万人(2025年11月)→ 約8万人(2026年6月) |
約4.4万人(2019年)→ 約6.2万人(2023年)→ 約7.8万人(2025年・過去最多) |
※数値は各主催者の公表値
SippoFestaの来場者は、2019年の約3.7倍になりました。お台場のジャパンわんこフェスタには、ペット関連の約180ブランドが出店しています。
新しいドッグイベントが相次いでいる
新規のイベントも次々に立ち上がっています。2024年にはお台場で「PETPLE」が初開催され、2日間で約3万人が来場しました。同じ年に埼玉で始まった「ワンタイムマルシェ」は、大阪や静岡にも会場を広げています。岐阜で生まれた「犬祭り」は、2026年に北陸へ初進出します。
出店する側の需要も高まっています。ジャパンわんこフェスタの駒沢公園会場では、当初の出店枠が埋まり、エリアを広げて追加枠を設けました。
ペット以外のイベントも犬連れエリアを取り込み始めている
ペットを主役としない既存のイベントにも、犬連れで楽しめるエリアが広がっています。
分野 | 主な例 |
|---|---|
フード・商業イベント | 肉フェス(お台場)の犬エリア「肉球ランド」(2024年に拡大)、横浜赤レンガ倉庫などの「BAY WALK MARKET」のドッグマーケット(約100店舗)、ららぽーと豊洲会場のオクトーバーフェスト |
プロスポーツ観戦 | 楽天イーグルス(2023年、球団初)、ソフトバンクホークスと横浜DeNAベイスターズ(2024年、本拠地初)、川崎フロンターレ(2025年、犬同伴パブリックビューイング) |
アウトドアフェス | 国営昭和記念公園の「TOKYO outside Festival」が、2026年10月に初のドッグエリア「TOKYO DOGS' RUNWAY」を新設 |
注目したいのは、こうした犬連れエリアのほとんどに物販ブースが並んでいる点です。飼い主が集まる場所には、商品と出会う機会が求められていることがわかります。
犬の飼育頭数は約682万頭(2025年)で、ほぼ横ばいです。イベントの拡大は、飼い主が増えたからではありません。飼い主がイベントに求めるものが大きくなっている、と読むのが自然です。
なお、すべてのイベントが伸びているわけではありません。名古屋の「わんにゃんドーム」は、2024年の来場者が前回の約9割でした。音楽フェスや花火大会では、今もペット同伴不可が基本です。
なぜ飼い主はドッグイベントに足を運ぶのか

飼い主がドッグイベントに集まるのは、店頭やECでは得られない3つの体験があるからです。
1つ目は、実物を見て触れられること。 素材の手触りやサイズ感、縫製の丁寧さは、写真だけではわかりません。とくに首輪やハーネス、ウェアのように愛犬の体に直接触れる商品は、実物を確かめたいというニーズが強くあります。
2つ目は、作り手と直接話せること。 原材料へのこだわりや、開発のきっかけを本人から聞ける。この会話が、商品への信頼と愛着を生みます。
3つ目は、愛犬の反応をその場で確かめられること。 フードやおやつの食いつき、ウェアの着心地を、買う前に確認できます。「試さないと選べない」というペット用品の壁を、イベントは自然に越えています。
埼玉発のワンタイムマルシェの主催者も、「ECでは写真と文章でしか見られない商品を手に取れる」ことをイベントの価値として打ち出しています。
実践からの示唆: ペットイベントを企画するなかで見えてきたのは、来場者の多くが「目当ての商品を買いに来る」というより、「まだ知らない商品との出会いを楽しみに来ている」という傾向です。愛犬と一緒に会場を回り、反応を見ながら選ぶ時間そのものが体験の価値になっています。
イベント出展だけでは、メーカーの販路開拓として十分ではない
ドッグイベントは強力な接点ですが、メーカーの販路開拓をこれだけで担うには限界があります。限界は「頻度」「対象」「その後」の3点です。
開催が週末・都市部に集中し、接点が単発で終わる
大型のドッグイベントは、多くが週末に首都圏や大都市圏で開かれます。出会いは1日限りで、次に同じ飼い主と接点を持てる保証はありません。地方の飼い主や、週末に予定が合わない飼い主には届きにくい構造です。
来場者は熱心な飼い主に偏る
ドッグイベントに足を運ぶのは、愛犬との外出に積極的な飼い主です。飼い主全体から見れば一部であり、イベントに来ない飼い主に商品を知ってもらう手段は別に必要です。
体験から購入・リピートへの導線が切れやすい
会場で商品を気に入っても、帰宅後にどこで買えるのかがわからなければ購入にはつながりません。ドッグイベントへの出店は、出店料や人件費、商品の準備など相応のコストがかかります。その投資が、後の購入やリピートにどれだけつながったのかを測りにくい点も課題です。
接点を組み合わせるという考え方

必要なのは、イベントを起点にしながら、飼い主の生活の中に複数の接点を用意することです。飼い主が商品と出会える場面は、大きく4つに整理できます。
場面 | 接点の例 | 特徴 |
|---|---|---|
日常 | 動物病院、トリミングサロン、ドッグラン | 接触の頻度が高い。信頼できる人から勧められる |
週末 | ドッグイベント、商業施設の犬連れ企画 | 体験が深い。熱心な飼い主に届く |
旅先 | ペット同伴の宿泊施設、観光地 | 滞在時間が長く、試してから反応を見るまでが短い |
オンライン | EC、SNS | 購入の受け皿。体験した後の再購入先になる |
試してもらう場をつくる効果は、サンプリング全般の調査からも読み取れます。サンプルをきっかけに商品を購入した経験がある人は69%で、そのうち79%がリピート購入していました(ペット用品に限った調査ではありません)。
愛犬と泊まりがけで出かける飼い主は、犬関連の支出が一般の飼い主の約1.7倍という調査もあります。
実践からの示唆: ペット関連のプロモーションでは、1つの接点に予算を集中させるより、流れで設計したほうが成果につながりやすい傾向があります。「どこで出会い、どこで試し、どこで買い続けてもらうか」を一連で描くということです。イベントは「出会い」には強い一方、「買い続けてもらう」までは担えません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 飼い主はペット用品をどこで買っているのか?
ペット用品の購入場所は、ホームセンター(54.8%)と総合EC(39.6%)が中心です(ベスト社調査)。ペットショップの実店舗は36.2%でした。EC市場の8割弱はAmazonや楽天などの大手モールが占めています。日常的な消耗品は身近な店で買われる一方、こだわりの商品と出会える場は限られています。
Q2. ドッグイベントの来場者は増えているのか?
主要なドッグイベントの来場者は、コロナ禍前を大きく上回って増えています。SippoFestaは2026年春に約8.4万人が来場し、2019年の約3.7倍になりました。お台場のジャパンわんこフェスタは、2024年の初回2万人から2026年6月には約8万人に拡大しています。スポーツ観戦やフードイベントなど、ペット以外のイベントに犬連れエリアが設けられる例も増えています。
Q3. 中小のペット用品メーカーが販路開拓で最初にやるべきことは?
販路の数を増やす前に、「飼い主にどこで試してもらうか」を決めることです。ペット用品は愛犬の反応を見ないと選ばれにくく、棚やECに並べるだけでは手に取ってもらえません。まず出会いと体験の場を用意し、その後の購入先としてECや店頭を位置づける順番が有効です。
Q4. ドッグイベントに出店するメリットと注意点は?
最大のメリットは、飼い主に商品を実際に試してもらい、作り手として直接説明できることです。愛犬の反応をその場で確かめてもらえるため、フードや用品の良さが伝わりやすくなります。注意点は、接点が1日限りになりやすいこと、来場者が熱心な飼い主に偏ること、出店後の購入につながったかを測りにくいことです。
Q5. ドッグイベント出店の効果はどう測ればよいか?
来場者数やブースの立ち寄り数ではなく、その後の購入・再購入につながったかで測るのが基本です。会場限定のクーポンコードやQRコード付きの案内を配り、EC上での利用を追跡する方法があります。会場でLINEやメールマガジンへの登録を促し、継続的な接点を残すことも有効です。
Q6. ペット用品のマーケティングで、イベント以外にどんな接点があるか?
日常・週末・旅先・オンラインの4つの場面で接点を考えられます。日常では動物病院やトリミングサロン、旅先ではペット同伴の宿泊施設などが挙げられます。それぞれ届く飼い主や体験の深さが異なるため、自社商品の特性に合わせて組み合わせることが重要です。
Q7. 異業種からペット業界に新規参入する企業は、何から始めるべきか?
商品開発と並行して、飼い主と出会う場を早い段階で押さえることです。ペット業界は店頭の棚が限られ、ECでは新規ブランドが埋もれやすい構造にあります。ドッグイベントなどで飼い主の反応を直接確かめることは、販路づくりだけでなく商品改善のヒントにもなります。
まとめ
ペット用品の販路開拓で問われているのは、販路の数よりも「飼い主が商品と出会い、試せる場」をどうつくるかです。ドッグイベントの来場者が数年で数倍に伸び、ペット以外のイベントにも犬連れエリアが広がっているのは、その需要の表れといえます。
ただし、イベントだけでは頻度・対象・その後の購入という点で限界があります。イベントを起点にしながら、日常・旅先・オンラインの接点を組み合わせて設計することが、これからのペット用品メーカーに求められます。個別の接点の活かし方は、今後の記事で順に掘り下げていきます。
ペットを起点とした事業開発・地域活性化について、ご相談を受け付けています。 戦略設計からクリエイティブ、リサーチまで一貫して対応可能です。お気軽にお問い合わせください。
参考文献
- ペット関連EC市場の調査(富士経済、参照日:2026-09-30)
- ペット用品の購買実態調査(ベスト、参照日:2026-09-30)
- ドッグフードに関する飼い主調査(INUNAVI、参照日:2026-09-30)
- サンプリングに関する消費者調査(ファンくる、参照日:2026-09-30)
- 全国犬猫飼育実態調査(ペットフード協会、参照日:2026-09-30)
- SippoFesta 来場者数(SippoFesta、参照日:2026-09-30)
- ジャパンわんこフェスタ 2025年11月開催(FLAFFY、参照日:2026-09-30)
- ジャパンわんこフェスタ 2026年6月開催(FLAFFY、参照日:2026-09-30)
- PETPLE 開催レポート(FLAFFY、参照日:2026-09-30)
- インターペット2025 開催結果(IB NEWS、参照日:2026-09-30)
- インターペット2024 開催結果(IB NEWS、参照日:2026-09-30)
- インターペット2019 開催結果(メッセフランクフルト ジャパン、参照日:2026-09-30)
- ワンタイムマルシェ(Wan Life、参照日:2026-09-30)
- 犬祭り 北陸初開催(ONES、参照日:2026-09-30)
- 肉フェス 肉球ランド(AATJ、参照日:2026-09-30)
- BAY WALK MARKET(参照日:2026-09-30)
- オクトーバーフェスト豊洲(参照日:2026-09-30)
- 川崎フロンターレ 愛犬同伴パブリックビューイング(Pet Biz JAPAN、参照日:2026-09-30)
- いざゆけワンワンデー(福岡ソフトバンクホークス、参照日:2026-09-30)
- ワンちゃんと観戦できる席(横浜DeNAベイスターズ、参照日:2026-09-30)
- ワンダフルチケット(東北楽天ゴールデンイーグルス、参照日:2026-09-30)
- TOKYO outside Festival ドッグエリア新設(STRAIGHT PRESS、参照日:2026-09-30)
- わんにゃんドーム2024 開催報告(テレビ愛知、参照日:2026-09-30)
- 犬同伴旅行者の支出に関する調査(ペッツオーライ、参照日:2026-09-30)