ペット市場は拡大を続ける一方で、高齢化や防災、環境、飼育放棄などの社会課題が深刻化しています。消費者は企業の理念や社会的責任を重視し、単なる品質や価格では選びません。本記事では、健康・防災・環境・共生の4視点から、社会課題を事業価値へ転換するアプローチを事例とともに解説します。

なぜ今、ペットビジネスに「社会課題」の視点が不可欠なのか?

企業の社会的責任(CSR)は、もはやコストや慈善活動ではありません。事業の根幹に据えるべき経営戦略そのものです。特にペット業界でこの視点が重要視される背景には、大きく3つのメガトレンドがあります。

  1. 飼い主の意識変化と「ペットの家族化」

    かつて「番犬」「愛玩動物」だったペットは、今や「家族の一員」です。飼い主は我が子同然のペットに対し、より質の高い食事、高度な医療、そして精神的な幸福を求めます。この意識変化は、健康や安全、倫理観への強いこだわりとなって現れ、企業の製品開発やマーケティングにも大きな影響を与えています。

  2. サステナビリティを重視するZ世代・ミレニアル世代の台頭

    これからの消費の中心となるZ世代やミレニアル世代は、環境問題や社会貢献への意識が非常に高いことで知られています。彼らは、企業の背景にあるストーリーや、環境・動物福祉への配慮を重視し、共感できるブランドを積極的に支持・拡散する傾向があります。彼らの価値観を無視して、未来の顧客を獲得することは困難です。

  3. 「パーパス経営」へのシフト

    企業の存在意義(パーパス)を明確にし、社会課題の解決を通じて利益を創出する「パーパス経営」や「CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)」が、世界的な経営の潮流となっています。社会に良いインパクトを与える企業こそが、生活者や投資家から選ばれ、持続的に成長できるという考え方が標準となりつつあるのです。

事業と接続する4つの社会課題領域と企業事例

それでは、具体的な社会課題と、それらを事業機会へと転換した企業の事例を見ていきましょう。貴社の製品・サービスがどの領域と接続できるか、ぜひ考えながらお読みください。

【領域1】健康 (Health):健康寿命の延伸と「予防医療」の推進

  • 社会課題:犬の54%が7歳以上のシニア期(出典1)というペットの高齢化。それに伴う肥満や糖尿病といった生活習慣病の増加。一方で、定期健診の受診率は依然として低いのが現状。
  • 企業の接続例:フード、サプリ、保険、IoTデバイス、オンライン診療

企業名・サービス名

取り組み概要

社会的価値と事業価値の両立

ペットライン(シニアのそなえプロジェクト)

獣医師監修のもと、高齢化するペットと飼い主の不安に寄り添う情報(セミナーやウェブコンテンツ)を提供。シニア期の健康維持に配慮した製品開発と連動し、飼い主の啓発活動を推進。

【社会】 飼い主の知識向上を促し、シニアペットの健康寿命延伸とQOL向上に貢献。
【事業】 専門性と信頼性を軸にしたブランディングを強化。シニア向けフード市場での優位性を確立し、顧客との長期的な関係を構築。

RABO (Catlog)

猫の首輪型IoTデバイスで行動データを24時間記録・解析。飲水量や運動量の変化から、飼い主が気づきにくい体調変化の兆候を早期に検知。

【社会】 病気の早期発見を促し、猫に多い泌尿器系疾患などの重症化を防ぐ。
【事業】 デバイス販売に加え、月額課金で安定収益を確保。蓄積データは新たな研究開発の源泉に。

アニポス

飼い主が自宅からオンラインで獣医師に相談・診療依頼ができる遠隔診療サービス。往診専門の動物病院と連携。

【社会】 シニアペットや移動が困難な飼い主の医療アクセスを改善。予防医療のハードルを下げる。
【事業】 まだ普及途上のペット向け遠隔医療市場で先行者利益を狙う。

【領域2】防災 (Disaster Preparedness):「ペットとの同行避難」を当たり前の社会へ

  • 社会課題:災害時の「同行避難」が原則化された一方、9割以上の飼い主が備えに不安を感じ、実際に避難所での受け入れ体制も未整備な地域が多い(出典2)。
  • 企業の接続例:保険、防災用品、住宅設備、自治体

企業名・サービス名

取り組み概要

社会的価値と事業価値の両立

アニコム損保 × 東京海上日動

ペット保険のリーディングカンパニーと損害保険大手がタッグ。災害時のペット捜索や避難所でのペットケアに関する協定を締結。

【社会】 保険契約者への啓発を通じ、社会全体の防災意識を底上げ。有事の際の具体的な支援体制を構築。
【事業】 企業の信頼性向上とブランドイメージ強化。新たな付加価値による契約者満足度の向上。

アイ・ディ・アクセス (PAWPORT)

平時はペットと過ごせるコンテナハウス、災害時は仮設のペット避難所になる「フェーズフリー」な防災コンテナを開発。

【社会】 避難所でのペット受け入れ問題を解決する具体的なソリューションを提供。自治体の防災計画を支援。
【事業】 公共施設や商業施設への導入を目指す、新しいBtoBtoCモデルを創出。

【領域3】環境 (Environment):サステナブルな消費への転換

  • 社会課題:年間数千トンに及ぶと推計されるペットフードロス。ペット用品における使い捨てプラスチックの多用。原料調達における環境負荷。
  • 企業の接続例:エコ素材グッズ、代替原料フード、リサイクル製品、フードロス削減サービス

    企業名・サービス名

    取り組み概要

    社会的価値と事業価値の両立

    cocoro

    賞味期限が近い、パッケージが古いなどの理由で廃棄されるペットフードや用品を、お得な価格で販売する社会貢献型通販サイト。

    【社会】 ペット業界のフードロスという具体的な課題解決に直接貢献。メーカーの廃棄コストも削減。
    【事業】 「お得に買って社会貢献できる」というユニークな価値提案で、環境意識の高いユーザーを獲得。

    Maison Neros

    サボテンやリンゴ由来のヴィーガンレザーなど、動物性素材を一切使用しない「アニマルフリー」のペット用品ブランドを展開。

    【社会】 アニマルウェルフェア(動物福祉)と環境負荷低減を両立。倫理的な消費の選択肢を提供。
    【事業】 高付加価値なラグジュアリー市場で、独自のブランドポジションを確立。

【領域4】飼育・共生 (Coexistence):「殺処分ゼロ」と「終生飼養」の実現へ

  • 社会課題:年間約9,000頭にのぼる犬猫の殺処分(出典3)。飼い主の高齢化や経済的事情による飼育放棄、多頭飼育崩壊といった深刻な問題。
  • 企業の接続例:譲渡支援活動、飼育啓発キャンペーン、ペット共生住宅、基金付き商品

企業名・サービス名

取り組み概要

社会的価値と事業価値の両立

犬猫生活株式会社

D2Cでプレミアムペットフードを販売する傍ら、利益の20%を上限に活動費を支出し、自社で保護猫・保護犬シェルターを運営。

【社会】 殺処分問題の根本解決に事業として直接的に取り組む。保護動物のQOL向上に貢献。
【事業】 企業の明確な理念が顧客の強い共感を呼び、ロイヤルティの高いファンコミュニティを形成。

フェリシモ「猫部」

猫好きのインサイトを捉えたユニークな雑貨を企画・販売。売上の一部で「フェリシモ猫基金」を造成し、全国の動物愛護団体を支援。

【社会】 顧客が買い物を楽しみながら、気軽に保護猫支援に参加できる仕組みを構築。継続的な支援を生み出す。
【事業】 「猫好き」という強力なコミュニティを基盤に、社会貢献活動が事業成長のエンジンとなる好循環を実現。

社会課題へのアプローチがもたらす「社内外」への効果

社会課題への取り組みは、社会に貢献するだけでなく、企業自身にも計測可能なメリットをもたらします。その効果は社外(アウター)と社内(インナー)の両面に及びます。

🌏 社外(アウター)への効果

  • メディア効果:「新商品発売」という企業都合のニュースよりも、「社会課題解決への挑戦」というストーリーの方が、メディアにとって報道価値が高く、パブリシティとして取り上げられやすくなります。
  • 生活者効果:飼い主の「守りたい」「良くしたい」という本質的な願いと、企業の活動が結びつくことで、強い共感が生まれます。その結果、SNSでの自発的な拡散や、価格競争に陥らない強固なファンベースの構築が期待できます。
  • 行政・団体効果:社会的な大義を持つことで、自治体やNPO、業界団体といった多様なステークホルダーとの協働が生まれやすくなり、一人では成し得ない大きなインパクトを創出するチャンスが広がります。

🏢 社内(インナー)への効果

  • 働きがいの向上:「自分たちの仕事が、社会を良くすることに繋がっている」という実感は、社員のエンゲージメントと誇りを育みます。これは、経団連の調査でも7割以上の企業が社会貢献活動の目的に挙げるほど、重要な効果です。(出典4)
  • 採用・定着への貢献:企業の社会性や倫理観を重視するZ世代・ミレニアル世代に対し、自社のパーパスを明確に打ち出すことは、採用広報において強力な武器となります。
  • 組織の一体感醸成:社会課題への取り組みは、マーケティング、広報、CSR、製品開発といった部門の垣根を越えた横断的なプロジェクトになることが多く、組織全体の一体感を高める効果も期待できます。

まとめ:貴社の「売りたい」を「社会に役立つ」ストーリーへ

本記事では、ペットを取り巻く4つの社会課題を軸に、それらを事業成長の機会へと転換するための「社会課題アプローチ」を解説してきました。

事例として紹介した企業に共通するのは、自社の事業課題(例:「新しいフードを広めたい」「保険を普及させたい」)を、社会課題の文脈(例:「ペットの生活習慣病を予防する」「ペットとの同行避難に備える」)に接続し、自社の事業活動そのものが「社会に必要な解決策」であるというストーリーを構築している点です。

このアプローチは、社外に対しては、共感と信頼を獲得し、社内に対しては、誇りと働きがいを醸成します。

ぜひ、貴社の製品・サービス、そして強みが、ペットを取り巻くどの社会課題の解決に貢献できるか、改めて見つめ直すことから始めてみてはいかがでしょうか。「売りたい」という想いを、「社会に役立つ」という大きな物語へと翻訳すること。それが、これからのペットビジネスにおける、持続的な成長の鍵となるはずです。

出典・参考文献

  1. 一般社団法人ペットフード協会「2024年(令和6年)全国犬猫飼育実態調査
  2. ユニ・チャーム株式会社「ペットの防災対策に関する意識調査」(2025年8月発表)
  3. 環境省自然環境局「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(令和4年度)」
  4. 一般社団法人 日本経済団体連合会「社会貢献活動に関するアンケート調査結果」(2020年9月発表)
  5. 各企業ウェブサイト、プレスリリース
  • 株式会社PETOKOTO
  • 株式会社RABO
  • 株式会社アニポス
  • アニコム損害保険株式会社
  • 株式会社アイ・ディ・アクセス
  • 株式会社cocoro Maison Neros(株式会社Own.)
  • 犬猫生活株式会社
  • 株式会社フェリシモ