ペット市場は不況下でも底堅く推移する傾向にあり、既存のペットへの支出は維持される傾向にあります。本稿では、最新データを交えながら、ペット市場の動向と企業にとってのビジネスチャンスについて解説していきます。

ペット市場の最新動向

まず市場規模を概観します。世界のペット関連市場は2023年に約3,200億ドルに達し、2030年までに5,000億ドル規模への拡大が見込まれています。年平均5~6%の成長が続く計算で、特に欧米でのペット支出は今後も拡大が予測されています。日本国内のペット市場も堅調な成長を続けており、2018年の約1.54兆円から2022年には約1.75兆円へと市場規模が拡大しました。2024年には1.83兆円に達する見通しで、さらなる成長余地を残しています。犬猫の飼育頭数自体は近年横ばいから微減傾向にあるものの、ペットの「家族化」により一頭あたりの年間支出額(ARPU)が増加していることが、市場拡大の原動力となっています。主要セグメント別の動向を見ていきましょう。以下に代表的な領域を挙げます。

ペットフード

ペット関連支出の最大カテゴリーです。世界市場全体の約43%を占め、2024年には980億ドル規模に達する見込みです。日本国内でも市場拡大を牽引しており、2018年の約5,212億円から2022年には約6,379億円へと22%成長しました。飼い主の健康志向の高まりにより、高品質・高付加価値のフードへの需要が増加。シニア向け療法食やオーガニックフードなど、高単価商品が注目を集めています。

ペット用品・ケア

室内飼育や小型ペットの増加により、トイレシート、消臭猫砂、ペット用シャンプーなどのケア用品市場が拡大しています。消臭効果の高い猫砂や高機能シャンプーなど、付加価値の高い商品の売上が伸長。ペット用ベッドやおもちゃ、衣類もデザイン性や機能性を重視した製品が登場し、飼い主のニーズに応えています。

ペットサービス・旅行

サービス分野も多様化が進んでいます。従来のペットホテル、トリミングサロン、ペットシッターに加え、ペット同伴旅行(ペットツーリズム)が注目を集めています。世界のペット旅行サービス市場は2023年時点で約19.6億ドルに達し、2030年まで年平均9.7%の成長が見込まれます。イギリスでは犬の飼い主の85%が「ペットを置いて海外旅行に行くよりも、ペット同伴で国内旅行を選ぶ」と回答しており、宿泊・レジャー業界でもペット歓迎施設やサービスの拡充が進んでいます。

ペット医療・保険

ペットの高齢化に伴い、獣医療や保険分野も拡大しています。2019年時点の国内ペット医療市場は約2,623億円規模で、高度医療や予防ケアへの支出が増加傾向にあります。ペット保険の加入率は年々上昇していますが、2022年時点で約9.4%と欧米に比べて低水準です。ペット保険先進国のスウェーデンでは加入率約65%であり、日本では成長の余地が大きい市場といえます。各社から多様な保険商品やヘルスケアサービスが登場し、ペットの健康管理への関心の高まりと相まって市場拡大が期待されます。

企業にとってのビジネスチャンス

以上の動向を踏まえると、ペット産業には多様な新規事業のチャンスが存在します。まず、ペットフード・用品分野ではプレミアム路線が有望です。ペットを子どものように思う飼い主は、多少高額でも安全で品質の良い商品を選ぶ傾向にあります。無添加のオーガニックフードやサプリメント、ペット用高機能家電(自動給餌器や見守りカメラなど)といった差別化された商品に商機があります。実際、米国では大手食品メーカーのゼネラルミルズが高級ペットフード企業を買収して参入するなど、市場の成長を見込んだ動きが見られます。国内でもユニ・チャームなど異業種から参入し成功している例があり、自社の強みを生かした商品開発が鍵となるでしょう。

サービス分野でも新たなビジネスモデルが登場しています。例えばペットシッターや散歩代行マッチングといったペット版シェアリングエコノミーは、共働き世帯や高齢者のニーズを的確に捉えています。また、旅行業界や宿泊業界にとってはペット同伴旅行の需要増がビジネスチャンスとなっており、ペット歓迎のホテルプランやドッグラン付きのキャンプ場といったサービスで新たな顧客層を獲得できます。さらにペットテック(PetTech)分野も注目を集めています。IoTセンサーやAIを活用した見守りサービス、健康チェックアプリ、迷子防止のGPS首輪など、テクノロジー企業の参入余地は広がっています。中国では家電大手の美的集団やスマホメーカーの小米(Xiaomi)といった異業種の大手もペット向け製品に参入しており、ペット市場では業種の壁を超えた競争が進んでいます。日本企業にとっても、自社のコア技術をペット領域に応用することで新規事業を創出できる可能性があります。

さらに、異業種連携や地域資源の活用による参入事例も増加しています。例えば、林業系企業がヒノキの間伐材(通常は廃棄される木材)を100%活用した猫砂を開発し、地域の森林資源を生かしたペット用品ビジネスで限界集落の再生に取り組むケースがあります。これは本業の素材技術をペット産業に応用した好例であり、環境配慮型商品として飼い主から支持を得ています。また、建材メーカーがペット向けの床材や壁紙を開発したり、アパレル企業がペットウェア市場に参入したりと、自社の強み×ペットニーズによる新規参入が各所で見られます。このようにペット市場は裾野が広く、多様な業界にビジネスチャンスを提供しているのです。

成功のためのポイント

ペットビジネスで成功するためには、次のようなポイントに留意すると良いでしょう。

ペットオーナーへの共感と体験価値

飼い主へのインタビューで最も印象的なのは、「ペットと過ごす、かけがえのない時間をどれほど大切にしているか」という点です。飼い主にとって、ペットは単なる商品ではなく、家族の一員なのです。そのため企業は、飼い主の愛情や価値観に寄り添い、ユーザー体験をいかに高めるかを最優先に考える必要があります。単なる価格訴求ではなく、心に響くストーリーテリングやブランドメッセージが効果的でしょう。

安全性・品質を超えた“倫理”への配慮

ペット関連の商品・サービスでは品質・安全性が最優先事項ですが、近年はSDGsの浸透に伴い、動物福祉(アニマルウェルフェア)や環境配慮といった倫理的な側面も重要視されています。製品開発の段階からサステナブルな原材料の使用や、動物実験に関する透明性の確保など、モラル面での誠実な取り組みを示す企業が支持を集めています。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)との融合

IoTを活用した自動給餌器やGPSトラッカー、オンライン獣医相談などの実体験から、ペットテック市場には大きな成長余地があることがわかります。飼い主がペットの健康状態をデジタルで管理し、獣医師とオンラインで連携できる仕組みや、旅行先からペットの様子を常時モニタリングできるサービスなど、DXとの融合は今後のペットビジネスに無限の可能性をもたらすでしょう。この分野はIT企業やベンチャーが参入しやすい特徴があり、異業種間のコラボレーションがさらに活発化すると予想されます。

多様なパートナーシップとコミュニティ形成

ペットビジネスの特徴は、獣医師、トレーナー、動物保護団体、旅行関連事業者など、多様なプレーヤーの存在です。成功の鍵となるのは、これらの業種・業界を超えた連携の構築です。専門家ネットワークを形成し、最新の知見を取り入れながらプロジェクトを推進することで、商品やサービスの品質は大きく向上します。また、SNSやイベントを通じてファンや地域社会とつながり、コミュニティを育てることは、ブランド価値の向上に直接つながります。

まとめ

データが示すように、ペット市場の成長は今後も継続すると予測されます。しかし、これは単なる「拡大市場」ではなく、社会インフラとしてのペットサービスが確立していく過程にあると考えられます。すでに欧米の一部地域では、公共交通機関やオフィスへのペット同伴が一般化しており、人と動物の共生を支える社会インフラが整備されつつあります。日本においても、法整備や企業・自治体の取り組みが進めば、ペットに関連する消費やサービスの可能性は一層広がるでしょう。

企業が参入を検討する際には、飼い主の心理的ハードルを理解し、品質と倫理面での信頼を構築することが不可欠です。そして何より、「ペットとともに豊かな生活を営む」ための体験価値を提案する姿勢が求められます。社会全体がペットとの共生を意識する流れは今後さらに加速すると予想されます。だからこそ、今行動を起こすことが企業にとって先見の明となるのではないでしょうか。

出典リスト

当記事で使用したデータは、あくまで複数の調査結果・報道を組み合わせて総合的に引用しています。特に金額規模(円換算)や前年比などは為替レートや発表タイミングで変動しますので、更新タイミングにご注意ください。

  • 一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」(2022年)
  • 総務省統計局「人口推計」(2022年)
  • 矢野経済研究所「ペットビジネス市場に関する調査」(2022年版)
  • 富士経済「ペット関連市場マーケティング総覧」(2022年版)
  • 矢野経済研究所「動物医療関連市場の現状と展望」(2020年版)
  • 一般社団法人日本ペット保険協会「ペット保険加入率に関する報告」(2022年)
  • Morgan Stanley “Pets are the new kids” (2021)
  • Grand View Research “Pet Care Market Size & Share Report” (2022)
  • Allied Market Research “Pet Travel Accessories Market Outlook” (2022)
  • Pet Business World “Survey reveals UK dog owners’ holiday preferences” (2021)
  • Euromonitor International “Pet Care in Japan” (2021)