熊本地震(2016年)と能登半島地震(2024年)の教訓をもとに、ペット同行避難を地域全体の防災アクションとして定着させる方法を考えます。また、避難所での受け入れ状況や車中泊のリスク、ガイドラインの要点、自治体・企業が果たせる役割などについても解説します。ペットを飼っている方も、そうでない方も、「ペットも家族」として安全に避難できる社会づくりのヒントにしていただければ幸いです。

大規模災害に備える上で、ペット同行避難(飼い主がペットと一緒に避難すること)は、今や地域防災計画に欠かせない視点です。環境省は東日本大震災の経験を踏まえ、「災害時の対応は飼い主による自助が基本」とするガイドラインを策定し、ペットを連れて避難することを推奨しています。しかし実際には、避難所でペットをどう受け入れるかについて地域差が大きく、情報不足から「ペットと一緒に避難できるのか」「どこに行けばいいのか」と不安を抱える飼い主も少なくありません。

熊本地震で見えた課題と改善策

熊本地震(2016年)では、多くの避難所でペットの受け入れ対応が混乱する課題が浮き彫りになりました。環境省は震災前から同行避難を基本とする指針を示していましたが、いざ発災すると「室内にペットを入れられない」といった避難所側の制約や、こっそりペットを連れ込んだ飼い主と他の避難者とのトラブルが各地で続出しました。避難所で断られた一部の飼い主は、やむなく車中泊を選択しましたが、長期の車中避難は飼い主にエコノミークラス症候群(血栓症)など健康リスクをもたらし、ペットにも暑さ寒さによる熱中症等の危険があります。実際、熊本地震では車内避難中の飼い主が体調を崩すケースも報告され、ペット同伴避難のあり方に対策が迫られました。

こうした課題を受けて、環境省は2018年2月にガイドラインを改訂し、「同行避難=ペットを人と同室で過ごせることではない」と明確化しました避難所の規模や状況に応じて、屋内でもペット専用エリアを設けることや、屋根のある屋外スペース等での飼養も想定し、動物アレルギーのある人や苦手な人への配慮が求められています。例えば、体育館の一角や渡り廊下などにケージを並べる、テントや車庫をペット待機所に充てるなど、事前にルールを決めておくことが重要です。また「ペットも社会の一員」として周囲と調和できるよう、日頃のしつけ(無駄吠えしない、ケージに慣れる等)の必要性も強調されました。自治体レベルでも教訓が共有され、ペット同伴可能な避難所をあらかじめ地図で示し、最低1ヶ所以上は確保すべきとの提言がなされています。熊本の経験は、ルール整備と周知徹底の大切さを全国に示し、その後各地でペット受け入れ態勢の見直しが進む契機となりました。

能登半島地震リポート:車中泊ゼロを目指して

2024年1月に発生した令和6年能登半島地震(石川県)でも、ペット避難の現状と課題がクローズアップされました。震源に近い珠洲市では「避難所にペットを連れて行けない」状況から、チワワとともに9日間も駐車場で車中泊を強いられた家族もいます。小型犬とはいえ冬の能登の寒さは厳しく、夜間はエンジンをかけ暖を取らざるを得ません。一方で、避難所でペットの鳴き声や臭いを嫌がる人がいる気持ちも理解できる——と葛藤しつつ「愛犬は家族同然。もっと一緒に避難できる場所が増えてほしい」と飼い主は訴えました。別の高齢世帯でも、大型犬を連れて避難所脇の車内で寝泊まりする姿が見られ、「他人に迷惑をかけるよりは…」と半ばあきらめの声が聞かれています。このように、避難所ごとにペット対応がまちまちで、大型犬はNGだが小型犬は抱えて同伴OKの場合があるなど、不統一な対応が飼い主の混乱を招いていました。

しかし能登の被災地では、「車中泊ゼロ」を目指す画期的な支援策も展開されました。地震直後、石川県獣医師会が中心となりペットの一時預かり作戦がスタート。加盟する県内61ヶ所の動物病院で被災ペットを無料で預かり始め、飼い主が安心して避難所に入れる環境を整えたのです。さらに3月には、被災者の生活再建を後押しするため専用のペットシェルターが開設されました。 この一時預かりシェルターはトレーラーハウスや改装した倉庫内にケージを並べ、約40頭の犬猫を収容できる施設です。複数のペットが同空間で生活するため、体臭や排泄物のニオイ対策が課題でしたが、空気清浄機や消臭機材の導入など企業の協力も得て環境改善に努めています。ペットを預けた飼い主たちは自身の避難所生活や住宅再建に専念でき、「ペットの居場所がないために車中泊せざるを得ない」状況の解消に大きく寄与しました。加えて、民間企業からはペット同行避難場所をスマホで検索できるサービスも登場し始めています。避難所のペット受け入れ情報を統一的に提供するプラットフォームで、地域ごとにペット可の避難先やルールを事前に把握できる仕組みです。行政・専門家だけでなくテクノロジーの力も活用することで、情報不足による“取り残される飼い主”をなくし、避難時の選択肢を増やす取り組みが進んでいます。

今日から始めるペット防災3ステップ:備えとしつけ

大切なペットを守るためには、平時からの備え(物資)としつけ(行動訓練)が欠かせません。以下にペット防災の準備を進める3つのステップを整理しました。今日から取り組めることばかりですので、ぜひチェックしてみてください。

ステップ1:ペット防災備蓄

キャリーバッグやケージ、予備の首輪・リード、ペットフード・水(最低5日分以上)などをすぐ持ち出せる場所に備蓄しておきます。トイレ用品(ペットシーツや排泄用のビニール袋)、常備薬や療法食、食器(フード用・水用)、タオル類なども忘れず準備しましょう。災害で家屋が倒壊しても持ち出せるよう、玄関近くや車中など素早く取れる場所にまとめておくと安心です。

環境省パンフレット「備えよう!いつもいっしょにいたいから」https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2309a.html

ステップ2:しつけ・健康管理

クレートトレーニング(ケージ慣れ)を日頃から行い、非常時でも落ち着いてキャリーに入れるようにしておきます。また「待て」「おすわり」など基本コマンドや無駄吠えしないしつけ、他人や他の動物に過度に興奮・攻撃しない訓練も大切です。

避難所では多数のペットが集まる可能性があるため、狂犬病予防注射や混合ワクチン接種など健康管理も怠らないようにします。さらに、万一はぐれてしまった場合に備え迷子対策も講じましょう。具体的には、マイクロチップ装着や首輪への名札装着などにより所有者明示を徹底します。災害でケージが壊れたりパニックで飛び出す可能性もあるため、「連絡先を書いた首輪+マイクロチップ」で二重の備えをしておくと安心です。

ステップ3:避難行動の計画

いざという時にどこに避難するかを決めておきます。自宅近くの指定避難所でペットの受け入れが可能か、平時から自治体の防災担当部署やホームページで確認しましょう。地域によっては全ての指定避難所でペット同伴が可能な場合もありますが(ペット専用エリアで受け入れ)、そうでない場合はペット可の避難所を把握しておく必要があります。避難所までのルートも事前にペットと一緒に歩いてみて、安全に移動できる経路をシミュレーションしておきましょう。災害の種類によっては自宅内が比較的安全なケースもあるため、在宅避難に備えて水・食料を蓄えるとともにペット用品を2階以上の高い場所に置くなどの工夫も有効です。また、万が一指定避難所や自宅でペットを飼えない状況になった場合に備え、一時的にペットを預かってもらえる避難先も検討しておきましょう。被害の及ばない地域の親戚・知人の家や、動物病院・ペットホテルなど、事前にいくつか候補を決めておけば安心です。普段から近隣の飼い主同士で情報交換し、いざという時に助け合える体制(ペット同伴で車に相乗り避難する等)を作っておくことも、心強い備えになります。

ペットを飼っていない人ができること(地域共助)

ペットを飼っていない住民にとっても、地域共助の観点からできることがあります。大前提として、避難所は人命を守る場であり、ペットは飼い主にとって家族同然の存在です。「ペットの排除は飼い主の排除」とも言われるように、動物を受け入れないことはその飼い主までも避難所から締め出す結果になりかねません。まずはこの点を理解し、非常時にはお互い様の精神で協力することが大切です。

具体的には、平時から地域の防災訓練や会合でペット同行避難の取り決めを共有しておくと良いでしょう。例えば「○○小学校避難所はペット専用エリアを体育館ステージ上に設ける」など情報を周知すれば、ペットを飼っていない人も「犬や猫も一緒に避難してくるかもしれない」という心構えができます。実際、ある自治体では住民向けにペット同伴避難所マップを作成し、誰もが命を守る行動を取れる社会を目指す取り組みが進められています。こうした情報に目を通し、「自分はペットを連れていないから関係ない」ではなく、地域の一員として備えておきましょう。

避難所でペットと遭遇した際には、適切な距離を保ちつつ受け入れに協力します。多くの自治体では指定避難所内にペット専用エリアを設けるルールを整備しており、飼い主自身が責任を持って世話をする体制になっています。ペットを飼っていない人は、そのルールに従っていれば自分に被害が及ぶ可能性は低いことを理解し、過度に排除的な態度を取らないようにしましょう。どうしても動物が苦手・不安という場合は、避難所のスタッフに相談してペットエリアから離れた場所に案内してもらうなど、冷静に対処することが望まれます。逆にペット好きの方であれば、避難所でペットの世話を手伝うボランティアに名乗り出たり、物資配給の際にペットフードやシーツの配布を手助けしたりすることも考えられます。平常時から地域のペット飼育者と顔見知りになっておくと、いざという時に声を掛け合い協力しやすくなるでしょう。災害時こそ地域全体で支え合うという意識を持ち、「人とペットが共に避難できる環境づくり」に非飼育者も参加することが、真の意味で安全・安心な避難所運営につながります。

まとめ :「迷子ゼロ」が守る未来

熊本地震と能登半島地震の教訓から浮かび上がったのは、ペット同行避難の体制整備と意識改革の重要性です。平時の準備不足や情報のミスマッチがあれば、非常時に飼い主とペット双方が危険に晒され、人命にも関わる事態を招きかねません。逆に言えば、行政・地域・個人が一丸となって適切な備えを講じておけば、「ペットのために避難をためらう」「ペットのせいで避難所で肩身が狭い」といった不幸は防ぐことができます。環境省ガイドラインの浸透や各自治体のルール整備、企業・NPOによる支援サービスの充実など、少しずつ前進はしていますが、何より大切なのは私たち一人ひとりの意識です。ペットを飼っている人は責任ある行動を、飼っていない人も寛容と思いやりを持って、お互いの命を守る行動を取れる社会を築いていきましょう。

最後に、災害時に飼い主とペットが離ればなれになり迷子になるペットをゼロにすることが目標です。備蓄やしつけ、マイクロチップによる身元表示の徹底で「迷子ゼロ」は決して夢ではありません。ペットも含めて「誰一人(1匹)取り残さない」防災を実現することが、飼い主の安心だけでなく地域全体の安全につながります。日頃の備えと地域ぐるみの支え合いで、大切な家族であるペットの命を守り抜き、未来の災害に強い社会を築いていきましょう。

参考リンク

  • 環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」(平成30年2月改訂)
  • 環境省「熊本地震における被災動物対応記録集」env.go.jp
  • 朝日新聞sippo「避難所でのペット受け入れ問題と指針改定」sippo.asahi.com
  • 朝日新聞デジタル「能登半島地震・ペットの被災と支援」asahi.com
  • 石川県獣医師会の取り組みに関するプレスリリース(パナソニックニュースルーム)news.panasonic.com
  • 前橋市「ペットと一緒に災害に備えるために」(ペット防災ガイド)city.maebashi.gunma.jp
  • SBI少短コラム「ペットともし被災してしまったら?」sbiprism.co.jp
  • 名古屋テレビNEWS「愛犬・愛猫の防災対策マップ作成(ペット防災サポート協会)」nagoyatv.com